2020/03/29 14:12

映画はいろんな人生を生きる人たちのインテリアを見せてくれます。また、映画のなかでのインテリアは時にその後のストーリー展開を暗示させたり、言及されていない真実を知る手がかりになったり、登場人物の性格を知るヒントになることも。

このシリーズでは、インテリアが印象的な映画を取り上げ、その空間から感じることを書き連ねていきます。第2回は全編モノクロの映画「フランシス・ハ」(2012)です。

ストーリー

ニューヨークに暮らすフランシス(グレタ・ガーウィグ)は、プロのダンサーを目指している。彼女と同居していた親友のソフィー(ミッキー・サムナー)は、パッチ(パトリック・ヒューシンガー)との婚約を機に、フランシスを置いて引っ越して行く。一方のフランシスは彼氏と別れ、所属しているダンスカンパニーからも公演メンバーとして雇うことができないと宣告され、八方塞がりとなってしまう。残されたフランシスは、故郷のサクラメントで両親と過ごすクリスマス、パリへの短期旅行を経て、再びニューヨークに戻ってくる......。

“関係性のインテリア” を考える
 
フランシスとソフィーがふたりで暮らす部屋、フランシスがソフィーとのルームシェアを解消されて辿り着く男友達の部屋、サクラメントの実家、一時的に身を寄せる大学の寮や、そしてフランシスが一人暮らしを始める部屋。フランシスが自分の居場所を探し求めて歩く(ドタバタと走ったり踊ったりも......)なかで、たくさんの「部屋」が登場します。

ソフィーと二人で暮らす部屋は特にこれといった特徴がないものの、生活感のあるキッチンやふたりの写真が大雑把に飾られたベッドルームにどこか「これで十分」と思わせる説得力があります。ふたりはひとり言のような会話を共有したり、それぞれが同じ部屋で別々のことに集中していたり、ただただ一緒のベッドで並んで眠ったり、家事の分担について小言を言い合ったり。ふたりの関係性自体がインテリアの主役という感じです。



一方、ソフィーとのルームシェアが解消された後にフランシスが間借りする男友達の部屋はイームズの椅子が置いてあったり、壁中がレコードや書籍、額にきちんと飾られた絵画で埋め尽くされているようないかにもセンスの良い雰囲気です。部屋の借り主である男友達はお金持ちの義父からお金を融通してもらいながらゆるくクリエイティブな仕事をして暮らす、余裕のある芸術家でした。皆が気に入るその部屋を、ソフィーは招かれて間も無く「この部屋そのものが自意識過剰」と言い捨てます。(ソフィーの彼氏が気に入らないフランシスは「パッチって放っておいたら応接間みたいな黒革のソファを選ぶタイプでしょ」と言い返しますが)。センス良く飾られたその部屋は、暮らす人間の生活を映し出しているというよりはファッション的だと感じます。飾られている家族写真ですら住人のものではなく、どこか余所余所しい。ドラマの中の部屋のようで居心地は良さそうだけれど、生活者の誰も本当にはインテリアに興味がなさそうなのが印象的です。




最後、さまざまな出来事を通してひとり暮らしをはじめるフランシスの部屋は、まだ引っ越したばかりのがらんとした空間に積まれたままのダンボールと椅子と机があるだけなのにとても気持ちがいい場所のように感じます。今まで誰かとシェアしていた部屋よりも小さそうだけれど、ひとり暮らしの部屋の大きな窓から緑が見えたり光が差しているからかもしれません。それに今まではダイニングやソファで何かをつまんだり飲んだりゴロゴロしながら過ごしていたフランシスが、この部屋では小さな机に向かっています。

映画では一緒に暮らす人が変わったり、仕事が変わったり、部屋の広さや景色が変わったり。自分だけでなく周りの人の変化も当然あるなかで、フランシスに起きる心の変化を部屋(やそこでの過ごし方)を通じて見ていくのも面白いかもしれません。私はフランシス演じるグレタ・ガーウィグの困惑と繊細さと明るさが入り混じった表情が大好きで、その姿に愛着と憧れる気持ちが湧いてしまい、気がつくと何度も何度もこの作品に戻ってきてしまいます。